おはようございます。火曜日の朝のレポートをお届けします。
今日の隠れたテーマは 「強い手が、いい手とは限らない」。今日の主題は、急性骨髄性白血病(AML)で、強い導入化学療法に耐えられる患者さんに、比較的マイルドな治療をぶつけた試験です。結果は、マイルドな治療のほうが「病気の再燃なく過ごせた期間」が長く、重い感染症や出血も少なめでした。昨日の東京市場では、日経平均が518円下げた一方で、東証プライムの約8割の銘柄は上がっていました。指数を動かしたのは、たった2銘柄です。健康・研究・お金の3ジャンルで整理します。
🩺 健康・医療ニュース
1.【2027年3月から】OTC類似薬、処方箋に「○」か「ー」をつける運用案 — 9/9 中医協
市販薬と成分が同じ処方薬(OTC類似薬)に、通常の自己負担とは別の負担を求める仕組みについて、9月9日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、医療現場での運用の対応案が示されました。9/8号でお伝えした緊急共同声明(9/3)の続報です。
| 項目 | 内容 |
| 対象 | 77成分・約1,100品目 |
| 別途の負担(特別の料金) | 薬剤費の4分の1 |
| 実施時期 | 2027年3月から |
| 負担を求めない人 | 子ども/がん・難病など配慮が必要な慢性疾患の患者/低所得者/入院患者/医師が長期使用などを医療上必要と考える患者 |
| 今後 | 2027年度以降、対象範囲の拡大と、負担割合の引き上げを検討 |
9月9日に示された運用案:
| 項目 | 内容 |
| 処方箋 | 「一部保険外療養」の欄を追加。別途負担の対象なら「○」、対象外なら「ー」を記載 |
| 判断の支援 | 国が対象医薬品の薬剤コードや、医療用医薬品とOTC医薬品の対応情報を提供し、電子カルテでも紙カルテでも全国共通の基準で判断できるようにする |
- 負担があるかないかを、処方のたびに医師が「○」「ー」で決めることになります。
- とくに「医師が長期使用などを医療上必要と考える患者」という除外は、判断の根拠を説明し、記録に残すことが求められる場面が増えそうです。
- 外来で「なぜ私は4分の1を払うのか」「なぜあの人は払わないのか」と聞かれる前提で、説明の型を院内でそろえておくと、2027年3月の混乱を小さくできます。
- 2027年度以降に対象の拡大と割合の引き上げが検討されている点も押さえておきたいところです。最初の77成分は入口にすぎない可能性があります。
- 一般の方へ:2027年3月から、市販薬と同じ成分の薬を病院で処方してもらうと、薬剤費の4分の1を別に払うことになります。
- ただし、子ども、がんや難病の方、低所得の方、入院中の方などは対象外です。医師が長く使う必要があると判断した場合も対象外になります。
- 今すぐ何かを変える必要はありません。普段使っている薬が対象になるかは、制度の開始が近づいたら主治医か薬剤師に確認してください。
2.【伸びが再び拡大】2025年度の医療費は49.2兆円で過去最高 — 押し上げたのは高額な薬
8月28日に厚生労働省が公表した2025年度の概算医療費(速報値)です。今日の主題の論文とつながるので、あらためて取り上げます。
| 項目 | 2025年度 |
| 概算医療費 | 49兆2,000億円(前年度比 +2.6%) |
| 増加 | 5年連続、過去最高を更新 |
| 伸び率 | 3年連続で縮小していたが、2025年度は拡大に転じた |
| 厚労省の分析 | 抗がん剤など高額な薬剤の利用が増えたことが一因 |
- 医療費の伸びを押し上げているのは、高齢化だけではありません。厚労省自身が「高額な薬剤」を理由に挙げています。
- 健康・医療ニュース①のOTC類似薬の見直しも、この医療費の伸びをどう抑えるかという流れの中にあります。
- 今日の主題の論文の背景にも、導入化学療法は副作用が重く、医療資源の利用も大きいという問題意識が書かれています。治療の「強さ」は、患者さんの体だけでなく、医療全体の負担にも関わっています。
- 一般の方へ:医療費は、私たちの保険料と税金、そして窓口負担で支えられています。49兆円を超え、なお伸びが加速していることが、OTC類似薬の見直しのような「負担の見直し」につながっています。
📚 注目論文・エビデンス
1.【今日の主題】強い化学療法に耐えられる人でも、マイルドな治療のほうが長く再燃しなかった — AMLのPARADIGM試験
急性骨髄性白血病(AML)で、強い導入化学療法を受けられる体力のある患者さんを対象に、アザシチジン+ベネトクラクスと導入化学療法を比べた、多施設の第2相ランダム化比較試験です(PARADIGM/NEJM 2026年9月3日号)。
背景:体力のある患者さんには、副作用が重くても導入化学療法が治癒を目指す標準とされてきました。一方、導入化学療法を受けられない患者さんには、アザシチジン+ベネトクラクスが標準です。この試験は、それを「受けられる人」にも使ったらどうなるかを調べました。
| 研究の設計 | 内容 |
| 対象 | 未治療で、導入化学療法を受けられる成人のAML 172人 |
| 比較 | アザシチジン+ベネトクラクス 86人 vs 導入化学療法 86人(1:1) |
| 背景 | 年齢中央値 64歳、72% が予後不良群(ELN 2022分類) |
| 除外 | 特定の遺伝子異常のある患者(CBF融合遺伝子、FLT3変異、60歳未満のNPM1変異) |
| 主要評価項目 | 無イベント生存期間(病気の進行・再燃や死亡などが起きずに過ごせた期間) |
| 追跡期間 | 中央値 21.9か月 |
結果:
| アザシチジン+ベネトクラクス | 導入化学療法 | |
| 無イベント生存期間(中央値) | 14.5か月 | 6.2か月 | HR 0.57(95%CI 0.39〜0.84、P=0.002) |
| グレード3以上の感染症 | 28% | 41% | |
| グレード3以上の出血 | 2% | 12% | |
- 「体力があるなら、強い治療を」——AMLの治療で長く続いてきた考え方に、正面から問いを投げた試験です。
- 無イベント生存期間は、マイルドな治療で14.5か月、導入化学療法で6.2か月。重い感染症も出血も、マイルドな治療のほうが少なめでした。
- ただし、読み過ぎは禁物です。これは第2相試験で、172人の規模です。72%が予後不良群で、導入化学療法がよく効きやすい遺伝子タイプの一部は最初から除外されています。「すべてのAMLで強い治療は不要」という結論ではありません。
- 主要評価項目は無イベント生存期間で、全生存期間の結果はこの抄録には示されていません。確かめるには第3相試験が必要です。
- ※資金はアッヴィ(ベネトクラクスの販売元の一つ)ほか。
- 一般の方へ:「強い抗がん剤ほど効く」とは限らないことを示した報告です。ただし対象は限られた条件の白血病で、まだ確定的な結論ではありません。治療の選択は、必ず主治医と相談してください。
2. 強い薬で「画像」はきれいになった — TAVI後の抗凝固薬 vs アスピリン(ACASA-TAVI)
経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)を受けた患者さんに、抗凝固薬(第Xa因子阻害薬のNOAC)の単剤とアスピリン単剤のどちらを使うかを比べた、ノルウェー3施設のランダム化比較試験です(ACASA-TAVI/JAMA)。先週金曜(9/11号)の「アスピリンを引く」話の続きになります。
| 研究の設計 | 内容 |
| 対象 | TAVIを受ける 65〜80歳 360人(平均 74.5歳)、うち 336人 が試験を完了 |
| 比較 | NOAC単剤 vs アスピリン単剤(1:1、12か月) |
| 有効性の評価項目 | 12か月後のCTで見た弁尖の血栓を示唆する肥厚(HALT) |
| 安全性の評価項目 | 出血・血栓塞栓症・全死亡の複合 |
結果:
| NOAC単剤 | アスピリン単剤 | |
| HALT(CTの所見) | 16.2%(27人) | 28.6%(48人) | リスク比 0.55(95%CI 0.37〜0.82、P=.004) |
| 出血・血栓塞栓症・死亡 | 7.5%(13人) | 10.6%(19人) | 差 −3.3%(95%CI −9.5〜2.8)= 非劣性 |
- より強い抗血栓薬で、画像上の弁尖の血栓は約半分に減りました。出血などが増えた様子もありませんでした。
- ただし、有効性の評価項目はCTの「画像所見」です。画像がきれいになることと、脳梗塞や弁の劣化が減ることは、同じではありません。この試験の規模では、そこまでは確かめられていません。
- 著者らの結論も「選ばれた患者では、TAVI後の抗凝固療法が有益な可能性がある」という控えめなものです。強い薬を一律に使えばよい、という結論ではありません。
- ※360人のオープンラベル試験です(評価は盲検)。対象は65〜80歳に限られています。
- 一般の方へ:TAVIのあとに飲む「血液をさらさらにする薬」の選び方についての報告です。薬を変えるかどうかは、自己判断せず主治医と相談してください。
💰 金融・税制ニュース
1. 日経平均は518円安、でもプライムの約8割は上昇 — 2銘柄で718円押し下げ
9月14日の東京市場。日経平均とTOPIXが逆の方向に動いた一日でした。
| 指標 | 数値 |
| 日経平均 終値 | 63,492.99円(前週末比 −518.35円、−0.81%)— 続落 |
| 取引時間中 | 下げ幅は一時1,200円超。8月4日以来、約1カ月半ぶりに6万3,000円を割り込んだ |
| TOPIX | 4,058.21(+29.91、+0.74%)— 反発 |
| 東証プライム | 値上がり 1,218/値下がり 307(変わらず 23) |
| 2銘柄の押し下げ | ソフトバンクグループとアドバンテストで約718円 |
- 9月12日、米オープンAIのアルトマンCEOが米フォーチュン誌のインタビューで、2026年中は株式を上場しないと語りました。AI業界の安全対策を優先するという理由です。
- これを受けて、同社に出資するソフトバンクグループが一時12%を超える急落。AI投資の減速を警戒して、半導体関連にも売りが広がりました。
- 一方で、33業種中27業種は上昇。サービス業や保険業が買われています。
- 2銘柄の押し下げ(約718円)が、日経平均全体の下げ(518円)を上回っています。単純計算すると、この2銘柄を除けば日経平均は約200円のプラスでした。
- 「日経平均が下がった=株が下がった」ではない日です。日経平均は、株価の高い一部の銘柄の影響をとても強く受けます。強い銘柄に頼った指数は、その銘柄がつまずくと、全体が下がったように見えます。
- 資産運用でも同じことが言えます。一つの強い銘柄やテーマに寄せるほど、その一つに振り回されます。広く分散した投資信託を持っている方は、昨日の518円安ほどは下がっていないはずです。
- 答え合わせ:9/14号で「下値の目安は11日のSQ値(63,039円)を割り込んだ先」という見立てを紹介しました。昨日は取引時間中にこれを下回り、終値では上に戻しています。
- ※相場は日々変動します。本レポートは今後の値動きを断定するものではありません。
2. 今夜からFOMC — 利上げは織り込み済み、ドル円は一時155円
米連邦公開市場委員会(FOMC)が今日(米国時間9月15日)から始まります。
| 日時(日本時間) | イベント |
| 9/15(火) | FOMC 1日目/21:30 米9月ニューヨーク連銀製造業景気指数 |
| 9/16(水)21:30 | 米8月小売売上高 |
| 9/17(木)3:00 | FOMCの結果(3:30 ウォーシュ議長の会見) |
| 9/17(木)〜18(金) | 日銀 金融政策決定会合 |
| 9/18(金) | 8:30 全国CPI(8月)/日銀の結果・15:30 植田総裁の会見 |
| 9/19(土)〜23(水) | 5連休(東京市場は 9/21〜23 休場) |
| 市場の予想・前夜の動き | 内容 |
| 0.25%利上げの確率 | 約87%(9/11時点) |
| 利上げの道筋(予想) | 年内に2回(9月を含む)、2027年は据え置き、2028年に2回の利下げ——という見通しが示される可能性(三井住友DSアセットマネジメント) |
| ドル円(9/14 NY) | 一時155円00銭まで上昇したあと、154円26銭へ |
| NYダウ(9/14) | 52,421.20ドル(−152.09ドル)。ナスダックも−146.62の26,186.41 |
- 利上げは、ほぼ織り込まれています。予想どおりに決まれば、それ自体は驚きではありません。注目は、今後の利上げの道筋(ドットチャート)と、議長会見の言葉です。
- NY市場も昨日は、AI開発のペースが鈍るとの懸念と原油高で下げました。ドル円は一時155円をつけています。円安は、海外の学会参加費や輸入品の値段には逆風です。
- 9/14号でお伝えした「連休前に、何があっても連休中は何もしないと決めておく」は、今週いっぱい有効です。FOMCの結果は木曜の未明、日銀は金曜。強い手を打つ場面ではなく、決めておいたとおりに過ごす週です。
- ※見通しは各社の予想であり、実際の値動きを保証するものではありません。特定の売買を推奨するものではありません。
📌 免責事項:本Morning Briefは情報提供を目的とした要約記事であり、医学的・投資的判断を行うものではありません。引用元の一次情報を必ずご確認ください。診療判断・投資判断は各専門家にご相談のうえ、ご自身の責任で行ってください。
「体力があるなら、強い治療を」。白血病に限らず、私たちは長いあいだ、そう考えてきました。耐えられる人には、いちばん強い手を打つ。それが誠実さだと思っていたところがあります。
今日の主題の試験は、その考えに正面から問いを投げました。強い導入化学療法に耐えられる患者さんでも、マイルドな治療のほうが、病気の再燃なく過ごせた期間が長かった。14.5か月と6.2か月です。重い感染症や出血も少なめでした。
もちろん第2相の172人で、すべてのAMLに当てはまる話ではありません。それでも、「強い=良い」と無条件に置いてきた前提は、一度疑ってみる価値があると思います。
TAVIの試験は、また違う教訓でした。強い薬で、画像上の血栓は半分近くに減った。でも画像がきれいになることと、脳梗塞が減ることは同じではありません。強い手の効果を、何で確かめたのかを見る必要があります。
昨日の相場も、同じ構図でした。日経平均は518円安。でも東証プライムの約8割の銘柄は上がっていました。指数を押し下げたのは、たった2銘柄で約718円。強い銘柄に頼った指数は、その銘柄がつまずくと、全体が崩れたように見えます。
そのきっかけは、AIの最先端の会社が「今年は上場しない、安全を優先する」と言ったことでした。いちばん速く走れる会社が、あえて急がない。それを市場は「悪いニュース」として売りました。
医療費は49.2兆円で、過去最高を更新しました。伸びを押し上げているのは、高額な薬です。強い手は、患者さんの体にも、社会の財布にも、それなりの負担をかけます。
強い手を打つ前に、それで何が良くなるのかを確かめる。今週は日米の中央銀行が「強い手」を打つとされる週ですが、私たちは決めておいたとおりに過ごしましょう。火曜日、今日も良い一日を🩺💰