現役医師 Dr. K が厳選した、健康・医療・金融の今朝のヘッドライン。
おはようございます。火曜日の朝のレポートをお届けします。
今日の隠れたテーマは 「答えは、時間をかけて届く」。昨夜、ノーベル生理学・医学賞が「光遺伝学」の3氏に決まりました。始まりは、小さな藻がなぜ光に向かって泳ぐのかという疑問です。脳を調べる道具になり、受賞に届くまで約20年かかりました。今日の主題は、糖尿病の人がたばこをやめたあと、合併症のリスクが下がって見えるまでに何年かかるかを調べた約21万人の研究です。木曜日には、「効果が何年続くと見るか」で評価が大きく変わるHPVワクチンの男性接種が、国の部会で再び議論されます。健康・研究・お金の3ジャンルで整理します。
10月5日、カロリンスカ研究所のノーベル会議は、2026年のノーベル生理学・医学賞をカール・ダイセロス氏、ペーター・ヘーゲマン氏、ゲオルク・ナーゲル氏の3氏に授与すると発表しました。受賞理由は「光で開閉するイオンチャネルと光遺伝学に関する発見」です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 受賞者 | カール・ダイセロス(米ハワード・ヒューズ医学研究所/スタンフォード大学、1971年生まれ) ペーター・ヘーゲマン(独フンボルト大学ベルリン、1954年生まれ) ゲオルク・ナーゲル(独ヴュルツブルク大学、1953年生まれ) |
| 受賞理由 | 光で開閉するイオンチャネルと光遺伝学(optogenetics)に関する発見 |
| 始まり | ヘーゲマン氏の「単細胞の藻クラミドモナスは、なぜ光のほうへ泳げるのか」という好奇心 |
| 2000年代初め | ヘーゲマン氏とナーゲル氏が、藻の細胞表面にあるタンパク質「チャネルロドプシン」を発見。青い光が当たると通り道が開き、電気信号が生じる。どの細胞に入れても、その細胞が光に反応するようになった |
| 2005年 | ダイセロス氏が、ラットの神経細胞にこの遺伝子を入れ、青い光で神経の信号を起こせることを発表 |
| 2年後 | 生きたマウスの脳の中で、光で神経を操るスイッチとして働かせることに成功 |
| 臨床での試み | 視覚障害のある人の視力を取り戻す試みに使われている |
| 賞金 | 1,200万スウェーデン・クローナ(3氏で等分) |
厚生労働省は10月8日(木)13時から、予防接種基本方針部会(第78回)を開きます。議題の1つ目は「HPVワクチンの男性への接種に係る課題について」です。7月22日の小委員会では、9価HPVワクチンを男子に接種した場合の費用対効果分析が示され、定期接種化の了承は先送りされていました。
7月22日に示された費用対効果(中学1年生相当の男子に9価ワクチンを2回接種、割引率2%):
| 効果の持続期間の仮定 | ① 薬事承認のある病気だけ(尖圭コンジローマ・肛門がん) | ② ①+中咽頭がん・陰茎がん |
|---|---|---|
| 20年(基本分析) | 1億7,144万円/QALY | 8,553万円/QALY |
| 30年 | 6,611万円/QALY | 3,858万円/QALY |
| 50年 | 3,232万円/QALY | 663万円/QALY |
※QALY(質調整生存年):健康な状態で1年生きることを「1」とする単位。1QALYを得るのにいくらかかるかを示します。男性への接種で女性の子宮頸がんが減る「間接的な効果」は、上の表とは別に推計されましたが、厚労省の資料は「推計を多分に含んでおり」より精緻な分析が必要としています。
韓国の国民健康診査のデータで、2型糖尿病と診断された約21万人を追跡し、禁煙してからの年数と、腎症・網膜症・神経障害(細小血管合併症)の起こりやすさの関係を調べました。吸い続けた人と比べて、はっきり低いリスクが見えたのは、禁煙が8年以上続いた人でした。JAMA Network Openに10月1日掲載。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| デザイン | 全国規模の後ろ向きコホート研究 |
| 対象 | 2003〜2013年に2型糖尿病と初めて診断され、健康診査で喫煙状況を4回以上確認できた人 |
| 人数 | 209,698人(平均57.2歳) |
| 「禁煙した人」の定義 | 最初の健診で喫煙中、それ以降のすべての健診で禁煙を続け、再喫煙なし |
| 比較対照 | すべての健診で喫煙していた人(吸い続けた人) |
| 禁煙期間の区分 | 2年未満/2〜3年/4〜5年/6〜7年/8年以上 |
| 評価項目 | 糖尿病性腎症・網膜症・神経障害の新規発生(ICD-10の診断コード) |
結果(吸い続けた人と比べた調整ハザード比):
| 合併症 | 禁煙 8年以上 | 禁煙 6〜7年 |
|---|---|---|
| 細小血管合併症 全体 | 0.81(95%CI 0.70〜0.95) | — |
| 糖尿病性腎症 | 0.79(0.64〜0.94) | — |
| 糖尿病網膜症 | 0.59(0.36〜0.97) | — |
| 糖尿病性神経障害 | 0.80(0.66〜0.98) | 0.76(0.64〜0.89) |
要旨で有意な関連が報告されたのは、上の表の組み合わせだけです。男女別に見ると、関連が有意だったのは男性だけでした(全体:調整ハザード比0.82、95%CI 0.70〜0.95)。
手術で切除したステージIII〜IVのメラノーマ(悪性黒色腫)に、再発予防として抗PD-1抗体を使った患者303人を調べた研究です。免疫関連有害事象(irAE)が治療をやめてから3か月以上続いた「慢性irAE」は48%に起きていました。JAMA Network Openに10月1日掲載。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| デザイン | 後ろ向きコホート研究(米国・オーストラリアの7施設、2015〜2024年) |
| 対象 | 術後補助療法として抗PD-1抗体を使ったステージIII〜IVのメラノーマ。治療終了後12か月を超えて追跡できた人 |
| 人数 | 303人(年齢中央値64歳、男性61%) |
| 慢性irAEの定義 | 抗PD-1抗体の中止後、3か月以上続いた免疫関連有害事象 |
結果:
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 急性のirAE | 220人(73%) |
| 慢性のirAE | 146人(48%) |
| 慢性で多かったもの | 甲状腺機能低下症 31%、関節炎 17%、皮膚炎 12%(慢性irAEのある146人中) |
| 発症までの日数(中央値) | 慢性 153日 対 慢性でない 99日(P=0.006) |
| ステロイドを使った割合 | 慢性 35% 対 慢性でない 24%(P=0.03) |
| 早く発症し、ステロイドで治療したirAE | 慢性化のオッズ比 3.00(95%CI 1.45〜6.22) |
| 血中サイトカイン | 慢性irAEのある人で8種類が高値(VEGFA、CCL19など) |
週明け10月5日(月)の日経平均は1,637円40銭高の69,946円86銭と大幅に反発し、取引時間中には一時7万円台を回復しました。TOPIXも54.22ポイント高の4,145.22です。金曜夜の米雇用統計が弱く、米国の早期利上げ観測が後退したことが追い風になりました。
| 指標 | 終値 | 前日比 |
|---|---|---|
| 日経平均 | 69,946.86円 | +1,637.40円(+2.40%) |
| TOPIX | 4,145.22 | +54.22(+1.33%) |
押し上げた上位5銘柄(日経平均への寄与):
| 銘柄 | 寄与 |
|---|---|
| アドバンテスト | +360.30円 |
| 東京エレクトロン | +336.26円 |
| ファーストリテイリング | +236.24円 |
| ソフトバンクグループ | +151.29円 |
| TDK | +125.91円 |
| 5銘柄の合計 | +1,210.00円(上げ幅の約74%) |
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 東証プライムの値上がり/値下がり | 860銘柄/633銘柄(変わらず53) |
| 売買代金 | 約7兆7,509億円 |
| 上昇した業種 | 33業種中22業種。1位は電気機器、次いでガラス・土石、化学、機械 |
| 下落した業種 | 電気・ガス、鉱業、海運 |
| その他の材料 | G7が原油・軽油の備蓄放出を決めたと伝わり、リスクを取る動きが強まった |
10/5号でお伝えした米9月ISM非製造業景況指数は54.9で、予想(55.0)とほぼ同じ、8月(55.4)からはやや低下しました。今日は15時35分から、植田日銀総裁が全国証券大会で挨拶します。
| 項目 | 結果・予定 |
|---|---|
| 米9月ISM非製造業景況指数(10/5) | 54.9(予想55.0、8月55.4)。重要項目の新規受注が予想以上に低下 |
| 今日 15:35 | 植田日銀総裁が全国証券大会で挨拶 |
| 今日 | 10年国債入札、米8月貿易収支(21:30) |
| 10/8(木)3:00 | FOMC議事録(9月15〜16日開催分) |
| 10/8(木) | さくらリポート(日銀地域経済報告)、🩺 HPVワクチン男性接種を議論する部会(13時) |
| 10/9(金) | オプションSQ、🩺 インフル第40週の全国集計 |
昨夜のノーベル賞は、小さな藻がなぜ光に向かって泳ぐのか、という疑問から始まった研究でした。
当時、それが脳の病気の研究につながると考えた人は、ほとんどいなかったと思います。役に立つかどうかが分かるまでに、約20年かかりました。
今日の主題も、時間の話です。糖尿病の人がたばこをやめて、腎臓・目・神経の合併症のリスクがはっきり下がって見えたのは、やめてから8年以上たってからでした。外来で「やめたのに何も変わらない」と言われることがあります。変わっていないのではなく、まだ数字に表れていないだけかもしれません。
逆向きの時間もあります。がんの免疫療法の副作用は、治療をやめた後も、半数近くの人で続いていました。治療が終わった日が、副作用の終わった日とは限りません。
木曜日には、HPVワクチンの男性接種が国の部会で議論されます。同じワクチンでも、効果が20年続くと見るか50年続くと見るかで、費用対効果の数字は5〜13倍変わります。予防の価値は、どれだけ先まで待てるかで決まります。
すぐに答えが出ないことを、「効いていない」と取り違えない。今日も一日、よろしくお願いします🩺💰