おはようございます。金曜日の朝のレポートをお届けします。
今日の隠れたテーマは 「その『◯年ぶり』は、思い出せるか」。今日は「◯年ぶり」という言葉が、医療にもお金にも並んで出てきました。都内でインフルエンザの注意報が9月中に出るのは3年ぶり。長期金利は一時3.075%で30年1か月ぶり。同じ「ぶり」でも、3年なら多くの人が覚えていて、30年なら誰も覚えていません。今日の主題は脳梗塞の試験です。「発症4.5時間以内なら血栓を溶かす」という長年の経験を、その外側(4.5〜24時間)に延ばして確かめたら、30%対30%で、きれいに何も変わりませんでした。健康・研究・お金の3ジャンルで整理します。
🩺 健康・医療ニュース
1.【3年ぶり】都内のインフル注意報、9月中は3年ぶり — 数字より先に、学校が動いている
NHKは9月24日、都内でインフルエンザの注意報が9月中に出るのは3年ぶりで、小学校を中心に学級閉鎖が相次いでいると報じました。
| 項目 | 内容 |
| 都内で9月中に注意報 | 3年ぶり(NHK 9/24) |
| 東京都の注意報発表 | 9月17日(第37週・定点9.53人、注意報レベル地域の人口が都全体の47.87%) |
| 都内の定点医療機関 | 419か所(2026年9月現在) |
| 集団感染(今シーズン累計) | 225件 |
| 学校の状況 | 小学校を中心に学級閉鎖が相次ぐ |
- 統計が出る前に、学校がすでに動いています。
- 定点報告は1週間まとめて、翌週の金曜に出ます。学級閉鎖はその日のうちに決まります。いま現場で起きていることは、統計より数日〜1週間先を走っています。
- 外来では「クラスで休んでいる子がいる」という問診が、いまは定点報告より早い情報になります。
- 東京都の注意報(9/17・9/18号既報)から1週間が経ちました。注意報が「出たまま続いている」段階です。
- 一般の方へ:都内で9月にインフルエンザの注意報が出るのは3年ぶりです。去年やおととしの感覚だと「まだ早い」と思ってしまいますが、今年は違います。
- お子さんの学校から学級閉鎖の連絡が来ても、驚かないでください。今年はそういう年です。
2.【今日14時】第38週が出る — ただし「連休の影響」は2日分しか入っていません
今日9月25日(金)の14時、厚生労働省から第38週の全国集計が公表されます。ただし9/24号で「連休の影響が最初に見える回」とお伝えした点は、もう少し正確に書く必要があります。
| 週 | 対象期間 | 5連休(9/19〜23)との重なり |
| 第38週(今日公表) | 9月14日〜9月20日 | 9/19(土)・9/20(日)の2日だけ |
| 第39週(10月2日公表) | 9月21日〜9月27日 | 9/21〜23の平日3日がここに入る |
第37週(前回)の数字 — 今日はここと比べます:
| 感染症 | 第36週 | 第37週 |
| インフルエンザ | 3.29 | 5.54(報告数20,697人・前週比+68.3%) |
| 新型コロナ | 1.71 | 2.37 |
- 今日の数字で「連休の影響」を結論づけないでください。
- 第38週に入っているのは連休の最初の2日で、しかも土日です。もともと受診が少ない曜日なので、ここだけでは連休効果はほとんど読み取れません。
- 医療機関が閉まっていた平日(9/21〜23)は、第39週に入ります。受診控えで定点報告が実態より低く出る可能性があるのは、10月2日公表の回です。
- つまり今日見るべきは「連休前の増え方が続いているか」であって、連休の谷ではありません。5.54からさらに伸びているかどうかが焦点です。
- 一般の方へ:今日の午後、新しい数字が出ます。ただし連休中のことは、ほとんどまだ反映されていません。
- 連休で人が集まったことの結果が見えるのは、10月に入ってからです。いま体調を崩している方は、連休の疲れと重なっている時期でもあります。
📚 注目論文・エビデンス
1.【今日の主題】「4.5時間」の外側で確かめたら、30%対30%だった — ATTENTION LATE
発症から4.5〜24時間経った脳底動脈閉塞の患者に、血栓回収療法の前にテネクテプラーゼ(血栓を溶かす薬)を上乗せしても、90日後の成績は変わりませんでした。JAMAに9月23日オンライン掲載。
| 項目 | 内容 |
| 試験名 | ATTENTION LATE(NCT05701956) |
| デザイン | 多施設・無作為化・非盲検/評価者盲検 |
| 実施施設 | 中国の脳卒中センター 40施設 |
| 登録期間 | 2023年3月16日〜2025年2月4日 |
| 対象 | 中等症〜重症の脳底動脈閉塞(NIHSS 10以上=脳卒中の重症度スケールで中等症以上)、発症4.5〜24時間で血栓回収可能施設に直接来院 |
| 症例数 | 330例(332例を無作為化、2例が同意撤回) |
| 背景 | 平均年齢 66歳(SD 11)、男性 241例(73%) |
介入と結果:
| テネクテプラーゼ+血栓回収 | 血栓回収のみ |
| 例数 | 166例 | 164例 |
| 投与 | 0.25 mg/kg 静注(最大25 mg) | — |
90日の機能的自立 (mRS 0-2=介助なしで日常生活が送れる状態) | 50/165(30%) | 50/164(30%) |
| 調整率比 | 0.92(95%CI 0.67〜1.25) | — |
| リスク差 | −0.18%(95%CI −10.13〜9.76) | — |
| 症候性頭蓋内出血 | 8例(5%) | 6例(4%) |
| 90日死亡 | 66例(40%) | 70例(43%) |
- 「4.5時間以内なら血栓溶解」という長年の線の、外側を正面から確かめた試験です。
- 主要評価項目は30%対30%。調整率比0.92の信頼区間は0.67〜1.25で、利益も害もまたいでいます。リスク差は−0.18%で、ほぼ完全に重なりました。
- 症候性頭蓋内出血は5%対4%。大きな差ではありませんが、上乗せの利益が見えない以上、出血のわずかな上振れは正当化しにくいという読み方になります。
- 実務的な意味は明確です。血栓回収が可能な施設に直接来た、遅れて来院した脳底動脈閉塞では、血栓回収に集中してよい。薬を足す根拠は、この試験からは得られません。
- 限界:中国の40施設のみで、非盲検(評価者は盲検)です。330例は中等度の差を検出する規模で、ごく小さな差を否定しきるには足りません。また血栓回収可能施設に直接来院した患者だけが対象で、転送されてきた患者には当てはめられません。
- あわせて押さえておきたいのは死亡率です。両群とも90日死亡が40%台でした。脳底動脈閉塞の重さは、治療法の選択にかかわらず変わっていません。
- 一般の方へ:脳の後ろ側を流れる太い血管(脳底動脈)が詰まると、命に関わります。
- 詰まりを取る治療(カテーテルで血栓を回収する治療)に、血栓を溶かす薬を足しても、3か月後の回復は変わりませんでした。
- 「薬を足さない」という判断が、根拠を持ってできるようになったということです。増やすことだけが進歩ではありません。
2. 同じ薬でも、「いまの標準治療」が変われば成績が変わる — CARDIO-TTRansform
ATTR型心アミロイドーシスに対するエプロンテルセンは、試験全体では主要評価項目を減らしませんでした。ただし事前に決めてあった解析で、すでにTTR安定化薬を飲んでいたかどうかで結果が分かれました。
| 項目 | 内容 |
| 試験名 | CARDIO-TTRansform(NCT04136171) |
| 対象 | ATTR型心アミロイドーシス 1,432例(男性1,297例=90.6%/女性135例=9.4%) |
| 介入 | エプロンテルセン 45 mg を4週ごと vs プラセボ、最長140週 |
| 主要評価項目 | 心血管死+再発性心血管イベントの複合 |
| 全体の結果 | 主要評価項目を減らさなかった |
| ベースラインで安定化薬を使用 | 57% |
事前規定の解析(交互作用 P = 0.017):
| ベースラインのTTR安定化薬 | 率比(95%CI) | P値 |
| 使っていない | 0.71(0.54〜0.93) | 0.012 |
| 使っている | 1.14(0.85〜1.53) | 0.39 |
- 薬が効かなかったのではなく、「上乗せする余地」が減っていた可能性があります。
- 安定化薬を使っていない群では率比0.71で、およそ3割の低減です。使っている群では1.14で、上乗せの利益は見えません。
- 交互作用のP値は0.017で、偶然とは言いにくい分かれ方でした。安全性は安定化薬の有無によらず良好と報告されています。
- ここが今日のテーマにつながります。ATTR心アミロイドーシスは、10年前なら「診断されないまま見逃されていた病気」です。安定化薬が標準になったいまの時代に試験をすると、同じ薬でも成績の出方が変わります。評価する時期が変われば、答えも変わります。
- 限界:これはサブグループ解析です。事前に決めてあった解析であっても、無作為化はこの区分で行われていません。安定化薬を使っている人と使っていない人では、重症度や背景が違う可能性があります。企業(製薬企業)が関与した試験である点も踏まえて読む必要があります。
- 一般の方へ:心臓の筋肉に異常なタンパク質がたまる病気の薬の話です。
- 「すでに別の薬を飲んでいる人」には上乗せの効果が見えず、「まだ飲んでいない人」には効果が見えました。
- 同じ薬でも、その人がいま何を使っているかで、足す意味が変わります。
💰 金融・税制ニュース
1.【30年1か月ぶり】長期金利が一時3.075% — 1996年以来の水準
9月24日、新発10年物国債利回り(長期金利)が一時3.075%まで上昇しました。1996年8月以来、30年1か月ぶりの高水準です。
| 項目 | 内容 |
| 長期金利(新発10年債利回り) | 一時 3.075% |
| 水準 | 1996年8月以来・30年1か月ぶり |
| 前週終値からの上昇 | +0.100% |
| きっかけ | 9月23日の米PMI(購買担当者景気指数)が市場予想を上回った → FRB(米国の中央銀行にあたる)の追加利上げ観測が強まり、米長期金利が上昇 → 日本に波及 |
10月のFOMC(米国の金融政策を決める会合)での 0.25%利上げの織り込み | 約5割 → 約7割へ上昇 |
- 住宅ローンの固定金利に、いちばん素直に効いてきます。
- 長期金利は固定金利型の住宅ローンの基準になります。3.075%という水準は、いま現役で働いている医師の大半が、社会人になってから一度も見たことのない数字です。
- 変動金利で借りている方は、政策金利(9/18に1.25%へ)のほうが効いてきます。固定と変動で、効いてくる経路が違います。
- これから借りる方にとっては、「固定はまだ上がるかもしれない」と「変動も上がり始めた」が同時に起きている局面です。どちらが有利かを一言では言えません。
- 一般の方へ:金利は「お金の値段」です。それが30年ぶりの高さになりました。
- 住宅ローンを固定で組もうとしている方、これから借り換えを考えている方は、いまの条件を一度確認してください。
- 預金金利や個人向け国債の条件も、少しずつ変わってきています。
2. 9月24日の市場 — 日経は4日続伸、TOPIXは下落、円は158円台後半
東京市場は日経平均が4日続伸する一方、TOPIXは下落しました。前夜のニューヨークもダウは3日続落、ナスダックは小幅反発で、方向がそろっていません。
東京(9月24日終値):
| 指標 | 終値 | 前日比 |
| 日経平均 | 65,513.99円 | +495.04円(4日続伸) |
| TOPIX | 4,075.30 | −15.84(−0.39%) |
ニューヨーク(9月24日終値):
| 指標 | 終値 | 前日比 |
| NYダウ | 51,349.98ドル | −161.61ドル(3日続落) |
| ナスダック総合 | 26,939.38 | +3.34(小幅反発) |
為替(9月24日):158円60銭まで弱含んだのち159円04銭まで上昇し、158円90銭で引けました。
- 金利が30年ぶりの高さになった日に、日経平均は上がりました。
- 買われたのはAI・半導体関連で、それ以外が売られたためTOPIXは下落しています。「日本株が上がった」と一言で言えない構図が続いています。
- 円安の理由として日本経済新聞が挙げているのは、米国の早期追加利上げ観測によるドル買いと、日銀の利上げペースが速まるとの思惑の後退です。9月18日に日銀が利上げしたのに円が安いのは、この2つ目が効いているためです。
- つみたて中心の方は、こういう日こそ何もしないのが基本です。
- 一般の方へ:株は上がった指数と下がった指数が同じ日に並んでいます。ニュースの見出しだけでは、方向は分かりません。
- 円安が進むと、輸入品や海外旅行の費用は上がります。生活の側に効いてくるのはこちらです。
- ※相場は日々変動します。本レポートは今後の値動きを断定するものではありません。
📌 免責事項:本Morning Briefは情報提供を目的とした要約記事であり、医学的・投資的判断を行うものではありません。引用元の一次情報を必ずご確認ください。診療判断・投資判断は各専門家にご相談のうえ、ご自身の責任で行ってください。
今日は「◯年ぶり」という言葉が、いくつも並びました。都内でインフルエンザの注意報が9月中に出るのは3年ぶり。長期金利の3.075%は30年1か月ぶり。
同じ「ぶり」ですが、重さがまるで違います。
3年ぶりは、思い出せます。おととしの秋に何が起きたかを覚えている人は、たくさんいます。だから対応できます。学校がすぐ学級閉鎖を判断できるのも、手順が記憶の中にまだ残っているからです。
30年ぶりは、思い出せません。1996年に金利3%の世界で働いていた人は、いまの現役のごく一部です。研修医はもちろん、私くらいの世代でも、この金利は「初めて見る数字」です。思い出せない「ぶり」は、ほとんど「初めて」と同じだと思っています。
今日の主題は、まさにそこの話でした。「発症4.5時間以内なら血栓を溶かす」——これは長く積み上げてきた経験です。では、その外側の4.5〜24時間ではどうか。期待はありました。理屈も立ちます。でも確かめてみたら、90日後に自立できた人は30%対30%。リスク差はマイナス0.18%。きれいに、何も変わりませんでした。
経験の内側では、経験が使えます。外側では、確かめるしかありません。そして確かめた結果が「変わらなかった」でも、それはちゃんとした答えです。足さなくていい、と根拠を持って言えるようになったのですから。
もう1本の論文も、時代の話でした。安定化薬が標準になる前なら、違う成績が出ていたかもしれません。同じ薬を、いつ評価するか。それだけで答えが動きます。
最後にひとつ、偶然の話を。2026年度の診療報酬は、本体が+3.09%。1996年度の3.4%以来、30年ぶりの改定率です。そして昨日の長期金利は3.075%で、こちらも1996年以来。医療の値段も、お金の値段も、同じ年を参照している——数字まで似ているのは、さすがに偶然ですが。
今日の14時には、第38週の数字が出ます。ただし連休と重なっているのは、土日の2日分だけです。慌てて結論を出さずに、来週以降を見てください。
金曜日です。今週もお疲れさまでした。よい週末を🩺💰