おはようございます。火曜日の朝のレポートをお届けします。
今日の隠れたテーマは 「増やしていいものと、増えてしまったもの」。今日の主題は、心不全の両心室ペーシングで「いちばん遅れて動く場所」を狙ってリードを置いた試験です。狙いは当たりました。狙った場所は平均9ミリ秒遅く、ちゃんとそこに置けています。それでも死亡と心不全入院は変わらず、リード関連の合併症だけが増えました。もう1本は、230万人のデータから「薬の副作用に、薬を足してしまう」型を24通り洗い出した研究です。一方で、増やすべきものもあります。今季のインフルワクチンは約5,190万回分の見込みで、10月2日までに6割超が出荷される計画です。健康・研究・お金の3ジャンルで整理します。
🩺 健康・医療ニュース
1.【答え合わせ】インフルワクチンは今季 約5,190万回分 — 10月2日までに6割超が出る計画
9/10号で「医療機関への着荷は10月ごろの見込み」とお伝えしました。その答え合わせです。今季(2026/27シーズン)の供給見込みは約5,190万回分で、10月2日までに約3,147万回分(総量の6割超)が出荷される計画です。
| 項目 | 内容 |
| 今季の供給見込み | 約5,190万回分 |
| 過去3年の平均使用量 | 約4,689万回分(今季はこれを上回る) |
| 10月2日までの出荷計画 | 約3,147万回分=総量の6割超 |
| 新型コロナワクチン | 約702万回分 |
| 算定方法 | インフルHAワクチンは0.5mL/回、経鼻弱毒生ワクチンは0.2mL/回で換算した合算 |
| 公表の場 | 8月26日の厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 |
| 厚労省の供給通知 | 2026年9月16日発出 |
- 9/10号の「10月ごろ」は、結果としてほぼ当たりでした。
- 今週の金曜10月2日までに、総量の6割超が出荷される計画です。今週中に届き始める医療機関が多いはずです。予約の受け付けを止めている施設は、今週が再開の判断どころになります。
- 供給量は過去3年の平均使用量(約4,689万回分)を上回ります。量そのものは足りる見込みです。ただし出荷は一度に来ません。6割が10月2日まで、残りはそのあとです。初回の入荷量で年間の配分を判断しないことが大事です。
- 今年は流行が早いのが厄介です。第37週ですでに全国5.54、沖縄16.61、埼玉は第38週で13.56。ワクチンが行き渡る前に流行のピークが来る可能性を、外来の説明に織り込んでおく必要があります。
- 一般の方へ:インフルエンザのワクチンは、今週から本格的に医療機関へ届き始めます。
- 量は足りる見込みです。慌てて何軒も電話をかける必要はありません。
- ただし今年は流行が早く始まっています。打てるようになったら、先送りしないほうがよい年です。かかりつけ医に、いつから予約できるか聞いてみてください。
2.【今日14時】第38週の全国集計が出ます — 見るのは「伸びが続いているか」
今日9月29日(火)、厚生労働省から第38週(9/14〜20)の全国集計が公表されます。昨日の号でお伝えしたとおり、公表が金曜からずれたのは5連休のためです。
| 第36週 | 第37週 | 第38週(今日公表) |
| 全国 | 3.29 | 5.54(20,697人) | ? |
| 沖縄 | 10.34 | 16.61 | ? |
| 東京 | 5.46 | 9.53 | ? |
| 埼玉(県が先に公表済み) | 4.57 | 9.10 | 13.56(2,333人) |
- 見るべきは連休の谷ではなく、伸びが続いているかどうかです。
- 第38週(9/14〜20)と5連休(9/19〜23)の重なりは、9/19・20の土日2日だけです。もともと受診が少ない曜日なので、ここに連休の影響はほとんど出ません。
- 医療機関が閉まっていた平日(9/21〜23)は第39週に入ります。受診控えで数字が実態より低く出るとしたら、そちらの回です。
- 先に出ている埼玉は9.10から13.56へ、1週で約49%増えました。全国5.54がどこまで動くかの目安になります。
- 今日のPDFの1ページ目に、第39週の公表日が書かれています。そこを必ず読みます(先週、私はこれを読み落としました)。
- 一般の方へ:今日の午後、新しい全国の数字が出ます。
- 先に出ている埼玉県では、1週間で9.10人から13.56人に増えました。流行は止まっていません。
- 熱やだるさがあるときは、無理に出勤・登校しないでください。
📚 注目論文・エビデンス
1.【今日の主題】狙いは当たった。結果は変わらず、合併症だけ増えた — DANISH-CRT
心不全の両心室ペーシングで、左室リードを「いちばん遅れて電気が届く場所」に狙って置いても、死亡と心不全入院は減りませんでした。狙い自体は当たっていました。Lancetに9月26日オンライン掲載。
| 項目 | 内容 |
| 試験名 | DANISH-CRT(NCT03280862、終了済み) |
| デザイン | 全国・無作為化・二重盲検・優越性試験 |
| 実施施設 | デバイス植込みを行うデンマークの5大学センターすべて |
| 登録期間 | 2018年3月20日〜2024年6月3日 |
| 対象 | 心不全+幅広いQRS、ガイドラインに沿った薬物治療下で両心室ペーシングの適応 |
| 症例数 | 1,001人(女性255人・男性746人)/誤登録1人を除き1,000人で解析 |
| 盲検 | 患者と手術室スタッフ以外の全研究者を盲検化 |
| 追跡 | 中央値 45.8か月(IQR 28.5〜65.7)、2026年2月27日に完了 |
| 資金 | ノボノルディスク財団、デンマーク心臓財団ほか(企業の製品販売者ではない) |
介入と結果:
| 標的留置(最遅延部位) | 従来留置(後側壁・非心尖部) |
| 無作為化 | 499人 | 502人 |
| 解析対象(修正ITT) | 499人 | 501人(誤登録1人を除外) |
| 狙いは当たったか | リード位置の電気的活性化は平均9ミリ秒遅い(95%CI 5〜13) | — |
| 主要評価(死亡または心不全による予定外入院) | 139/499人(28%) | 128/501人(26%) |
| ハザード比 | 1.10(95%CI 0.86〜1.39)/p=0.45 | — |
| 合併症全体 | 71人(14%) | 64人(13%) |
| リード関連の合併症 | 標的留置群で多かった | — |
| 手技関連死 | 1件 | 0件 |
- この試験の価値は、「狙いが外れたから効かなかった」という言い訳を潰したところにあります。
- リード位置の電気的活性化は、標的群のほうが平均9ミリ秒遅い(95%CI 5〜13)。狙った場所に、ちゃんと置けていました。それでも主要評価はHR 1.10、p=0.45。むしろ数字は不利な側にあります。
- 観察研究では「遅い場所にリードがある患者は予後が良い」と示されていました。今回それを無作為化で試したら、再現しませんでした。観察で見えた関連が、介入で消えた典型例です。
- 実務上いちばん重いのは合併症です。全体は14%対13%とほぼ同じですが、リード関連の合併症は標的留置群で多く、手技関連死も標的群に1件ありました。利益が示せないのに手技の負荷だけ増える——これが「増えてしまったもの」です。
- 限界:デンマーク1国の5施設で、対象は幅広いQRSの患者に限られます。対照群も「後側壁・非心尖部」というすでに良い位置で、完全にランダムな位置ではありません。つまり「従来のやり方が十分に良い」という結論であって、「リード位置はどこでもいい」という意味ではありません。
- 一般の方へ:心不全に使う、心臓の動きを整えるペースメーカーの話です。
- 「いちばん動きが遅れている場所に電極を当てれば、もっと効くはず」——理屈は通ります。実際、狙った場所にきちんと置けていました。
- それでも、3年半以上見て、命や入院の数は変わりませんでした。そして電極にまつわるトラブルは、狙った側のほうが多かったのです。
- 工夫を足したぶん、良くなるとは限らない。足したものが負担だけ残すこともあります。
2. 薬の副作用に、薬を足してしまう — 230万人から洗い出された24の型
「処方カスケード」——ある薬の副作用を新しい病気と読み違えて、別の薬を足してしまう現象です。カナダ・オンタリオ州の229万7,942人のデータから、優先して対策すべき24の型が特定されました。BMJ掲載。
| 項目 | 内容 |
| デザイン | 人口レベルの後ろ向きコホート研究(行政医療データ) |
| 対象 | オンタリオ州の地域在住高齢者 2,297,942人(66歳以上、女性54.3%)、2022年1月1日時点 |
| 検討した型 | 2025年の国際専門家デルファイ合意で挙げられた65の処方カスケード |
| 解析手法 | 処方順序対称性分析による調整順序比(1より大きいほど「先の薬→後の薬」の順に起きやすい) |
| 優先の基準 | 開始薬の人口プレバレンス5%以上/カスケード発生率1%以上/調整順序比1超(いずれも95%CI下限が基準超) |
| 結果 | 65のうち24(37%)が3基準すべてを満たした |
| 開始薬として最多 | 心血管系の薬(薬剤クラスのプレバレンス 19.0〜65.9%) |
発生率が高かったカスケード:
| 順 | 先に出た薬 → 後から足された薬 | 発生率(95%CI) |
| 1 | 鉄剤 → 下剤 | 11.9%(11.7〜12.1) |
| 2 | スタチン → 鎮痛薬 | 10.9%(10.7〜11) |
| 3 | コリンエステラーゼ阻害薬 → 睡眠薬 | 10.3%(9.9〜10.7) |
時間的な結びつきが強かったカスケード(調整順序比):
| 順 | 先に出た薬 → 後から足された薬 | 調整順序比(95%CI) |
| 1 | ステロイド → 抗精神病薬 | 2.55(2.47〜2.64) |
| 2 | 下剤 → 止瀉薬 | 2.53(2.43〜2.65) |
| 3 | コリンエステラーゼ阻害薬 → 制吐薬 | 2.24(1.90〜2.65) |
- 並んでいる型は、どれも「言われてみれば、そうだ」というものばかりです。
- 鉄剤で便秘→下剤(11.9%)。スタチンで筋肉痛→鎮痛薬(10.9%)。コリンエステラーゼ阻害薬で不眠→睡眠薬(10.3%)。高齢者の10人に1人前後で起きています。
- 調整順序比で最も強いのはステロイド→抗精神病薬(2.55)です。ステロイドによる精神症状に、抗精神病薬を足す流れです。下剤→止瀉薬(2.53)は、下剤が効きすぎた結果に止瀉薬を重ねる形で、薬で作った状態を薬で戻している構図がはっきり見えます。
- 実務での使い方は単純です。新しい症状が出たら、「新しい病気」の前に「最近始めた薬」を疑う。この24の型は、その確認リストとして使えます。著者らも処方・減処方(deprescribing)の指針や政策への活用を結論に挙げています。
- 限界:行政データによる観察研究で、因果関係を示すものではありません。調整順序比が大きくても、本当に副作用だったのか、単に併存疾患が進んだのかは、この手法では区別できません。カナダ・オンタリオ州の66歳以上に限られ、処方習慣の違う日本にそのまま当てはまる保証もありません。
- 一般の方へ:薬を飲み始めてから出た不調は、「新しい病気」ではなく「その薬のせい」かもしれません。
- たとえば貧血の鉄剤を飲み始めて便秘になるのはよくあることです。そこで下剤を足すと、薬が2つになります。鉄剤の種類や量を変えれば済んだかもしれません。
- 「いつから出た症状か」「その前に何の薬が増えたか」を、受診のときに伝えてください。それだけで、薬を1つ減らせることがあります。
- 自己判断で薬をやめないでください。必要な薬をやめると危険です。伝えたうえで、医師と一緒に決めることが大事です。
💰 金融・税制ニュース
1. 一時67,000円台を回復して、486円安で終えた — 日経平均は6日ぶり反落
9月28日(月)の日経平均は、一時600円超上げて約1か月半ぶりに67,000円台を回復したあと、下げに転じて486円58銭安で終えました。6営業日ぶりの反落です。
| 指標 | 終値 | 前営業日比 |
| 日経平均 | 65,877.62円 | −486.58円(−0.73%) |
| TOPIX | 4,112.00 | −16.59 |
1日の中身:
| 項目 | 内容 |
| 寄り付き | 前週末の米半導体株高を受けて強含み |
| 日中高値 | 一時600円超上昇し、約1か月半ぶりに67,000円台を回復 |
| その後 | 利益確定売りが広がり、大引けにかけて下げ幅拡大(「陰の大引け坊主」) |
| 重荷 | 半導体の比重が高い韓国総合株価指数(KOSPI)の下落 |
| 上昇業種 | 保険・銀行・電気ガス |
| 下落業種 | 医薬品・パルプ紙・鉱業 |
- 上げて始まり、高値を取って、下げて終わった1日です。日中の振れは1,000円を超えています。終値だけを見ると「486円安」ですが、日中に67,000円台を見た人と、終値だけを見た人では、同じ日の印象がまったく違います。
- 直前まで5営業日続伸していました。この反落は「何かが起きた」というより、上げたぶんの利益確定という説明が素直です。上がったあとに下がるのは、それ自体では異常ではありません。
- 金利上昇の恩恵を受ける保険・銀行は上げ、医薬品は下げました。先週から続く構図です。
- つみたて中心の方にとって、こういう日は何もしないのが基本です。往復すると、増えるのは手数料と税だけになりかねません。
- ※相場は日々変動します。本レポートは今後の値動きを断定するものではありません。
- 一般の方へ:「67,000円台回復」と「486円安」は、同じ日の出来事です。
- ニュースの見出しは、どちらを切り取るかで印象が変わります。1日の中の高値や安値ではなく、終値の流れを見てください。
2. 今日から金曜まで、数字が続けて出ます — なお昨夜のNYの終値は、今朝は使いません
今週は水曜に米PCEと上期末、木曜に日銀短観、金曜に米雇用統計と、材料が続きます。なお昨夜(9/28)のニューヨークの終値は、2社以上で一致する数字を確認できなかったため、今朝の号では数字を使いません。
| 日付 | 予定 |
| 9/29(火・今日) | 🩺 インフル第38週の公表、月例経済報告(9月)、米・消費者信頼感指数、米・JOLT求人件数 |
| 9/30(水) | 上期末、鉱工業生産(8月)、米・ADP雇用統計、米・PCEコア価格指数(8月) |
| 10/1(木) | 日銀短観(7〜9月期)、米・ISM製造業景況指数 |
| 10/2(金) | 米・9月雇用統計、日・8月失業率、欧・9月HICP(消費者物価指数・速報) |
昨夜のニューヨークについて、確認できたこと:
| 項目 | 内容 |
| 方向 | ダウ・ナスダックとも下落して推移(複数の時間帯で一致) |
| 背景 | 中東情勢(ホルムズ海峡再開案を米大統領が拒否との報道)で原油が上昇、その後は交渉進展の報道で伸びが鈍化 |
| 背景 | 米9月ダラス連銀製造業活動が予想を上回り、米長期金利の上昇にともなうドル買いが優勢に |
| 終値 | 2社以上で一致する数字を確認できず。今朝は使いません |
- 数字が取れないときに、1社だけの数字で埋めない——このレポートの決まりです。昨夜の終値は、明日の号で確定した数字をお伝えします。
- 今週いちばん動かしうるのは金曜10月2日の米雇用統計です。米10年債が5%台にある状況で雇用が強ければ、追加利上げ観測が強まり、円安圧力が続きます。
- 明日10月1日発表の日銀短観は、9月18日の利上げ後に企業がどう見ているかを示す最初のまとまった材料です。
- 上期末は今日ではなく、明日9月30日です。期末をまたぐ値動きに振られないでください。
- ※相場は日々変動します。本レポートは今後の値動きを断定するものではありません。
- 一般の方へ:今週は金曜のアメリカの雇用統計が、円相場に効いてきそうです。
- 昨夜のニューヨークの終値は、確かな数字が2つ揃わなかったので、今日は書きません。数字を埋めるより、確かめられたものだけをお伝えします。
📌 免責事項:本Morning Briefは情報提供を目的とした要約記事であり、医学的・投資的判断を行うものではありません。引用元の一次情報を必ずご確認ください。診療判断・投資判断は各専門家にご相談のうえ、ご自身の責任で行ってください。
今日の主題は、きれいな試験でした。
「いちばん遅れて電気が届く場所に、電極を置けばもっと効くはずだ」——観察研究ではそう見えていました。理屈も通ります。そこでデンマークが国を挙げて、1,000人を二重盲検で無作為に振り分けました。
狙いは、当たっていました。標的群のリード位置は、平均9ミリ秒だけ遅い場所にありました。技術としては成功しています。
それでも、3年半以上見て、死亡と心不全入院は28%対26%。ハザード比1.10、p=0.45。変わりませんでした。そしてリードにまつわる合併症は、狙った側のほうが多かった。手技関連の死亡も、狙った側に1件。
足したのは工夫でした。増えたのは合併症でした。
もう1本も、同じ形をしています。鉄剤を出す。便秘になる。下剤を足す。高齢者の11.9%で起きています。ステロイドで気分が高ぶる。抗精神病薬を足す。この結びつきがいちばん強い(調整順序比2.55)。下剤が効きすぎて、止瀉薬を足す(2.53)に至っては、薬で作った状態を薬で戻しています。
どちらも、悪意はありません。目の前の症状を、よくしようとした結果です。だからこそ、気づきにくい。
一方で、増やすべきものもあります。今季のインフルワクチンは約5,190万回分。今週金曜までに6割超が出る計画です。流行はもう始まっていて、埼玉は1週で9.10から13.56へ増えました。これは、増やしていいものです。
最後に、今朝は一つ書けないことがあります。昨夜のニューヨークの終値が、2社で一致しませんでした。だから数字を書いていません。枠があるから埋める、をやめる——これも「増やさない」のうちだと思っています。
火曜日です。足す前に、一度だけ「これは何を増やすか」と考える。今日はそこを持って外来に入ります🩺💰