おはようございます。金曜日の朝のレポートをお届けします。
今日の隠れたテーマは 「差し引きで、見る」。今日の主題は、日本の心臓内科医たちがNEJMに出した試験です。心筋梗塞の治療でアスピリンを「引いて」みたら、出血は減った。でも、心筋梗塞や脳卒中は増えた。同じ号には、合計はまったく同じなのに、中身が入れ替わっていたという韓国の試験も載っています。何かを減らせば、別の何かが増える。大事なのは合計ではなく、何と何を交換したのかです。健康・研究・お金の3ジャンルで整理します。
🩺 健康・医療ニュース
1.【訂正】インフルの数字、9/10号は最新ではありませんでした — 全国は 1.76、東京は 2.65
まず訂正です。9/10号で「東京 1.49/神奈川 1.37/全国 1.11」とお伝えしましたが、これは最新の数字ではありませんでした。引用元に挙げた 9月4日の厚生労働省発表(第35週:8/24〜8/30)では、すでに次の水準になっていました。
| 地域 | 9/10号で載せた数字 | 9/4発表・第35週の実際 |
| 全国 | 1.11 | 1.76 |
| 東京 | 1.49 | 2.65 |
| 神奈川 | 1.37 | 2.99 |
第35週の全体像(厚生労働省 9/4発表):
| 項目 | 数値 |
| 全国の報告数 | 6,543人(定点当たり 1.76) |
| 昨年の同じ週 | 1,347人(定点当たり 0.35)→ 今年は約5倍 |
| 定点当たり 上位 | 沖縄 8.50/岩手 4.33/新潟 3.58/神奈川 2.99/青森 2.88/東京 2.65 |
- 1.11 と 1.76 では、受け取る印象が違います。流行開始の目安 1.00 を「少し超えた」のか、「1週で6割近く増えた」のか。9/10号の書き方では、立ち上がりの速さを過小に伝えていました。
- ワクチンの着荷は10月ごろという見込み(9/10号)は変わりません。流行の立ち上がりが速い以上、ワクチンが間に合わない期間の重みは、9/10号で書いたより大きいということになります。
- 第36週(8/31〜9/6)の全国集計は、本日9月11日(金)に公表予定です。この週から2026/27シーズンとして集計が切り替わります。
- 一般の方へ:全国では、去年の同じ時期の約5倍の患者さんが報告されています。とくに沖縄は突出しており、首都圏も全国平均を上回っています。
- ワクチンが行き渡る前の数週間は、手洗い・人混みでのマスク・体調が悪いときに休む、が基本です。お子さんのいるご家庭は、学校の学級閉鎖の情報に気をつけてください。
2.【全体は減った、子どもは過去最多】今週は「自殺予防週間」です
9月10日から16日は「自殺予防週間」です。あわせて、昨年の統計を確認しておきます(警察庁・厚生労働省「令和7年中における自殺の状況」)。
| 項目 | 2025年 |
| 自殺者数(総数) | 19,188人(前年比 1,132人減) |
| 男性/女性 | 13,176人/6,012人(いずれも減少) |
| 小・中・高生 | 538人(前年比 9人増)— 統計開始の1980年以降で過去最多 |
- 総数は1,132人減りました。これは確かに良いニュースです。ただ、ほとんどの年齢層で減るなか、19歳以下だけは増えています。
- 合計が減ったという数字の中に、増えている層が埋もれている。「全体としては改善」という報告を読むときほど、内訳を見る必要があります。
- 外来で子どもや若い人を診る機会がある方へ。身体症状の訴えの背景に、眠れない・食べられない・学校に行けない、が隠れていることがあります。一言たずねるだけで、つながる相談先があります(下記)。
- そして、医療者自身も例外ではありません。当直明けの判断力の落ち方を、私たちは患者さんには説明できても、自分には当てはめていないことが多い。
- 一般の方へ:つらいときに相談できる窓口があります。電話がつらければ、SNSやチャットの窓口もあります。
| 窓口 | 連絡先 |
| #いのちSOS | 0120-061-338(24時間) |
| よりそいホットライン | 0120-279-338(24時間) |
| いのちの電話 | 0120-783-556(16時〜21時、毎月10日は24時間) |
| こころの健康相談統一ダイヤル | 0570-064-556(都道府県ごとに対応) |
| 24時間子供SOSダイヤル | 0120-0-78310(24時間) |
| チャイルドライン(18歳まで) | 0120-99-7777(16時〜21時) |
- SNS・チャットの窓口は、厚生労働省の「まもろうよ こころ」にまとまっています。
📚 注目論文・エビデンス
1.【今日の主題】アスピリンを引いたら、出血は減り、心筋梗塞は増えた — 日本発のPREMIUM試験
急性心筋梗塞(STEMI)でカテーテル治療(primary PCI)を受ける患者さんに、最初からアスピリンを使わずに済むかを調べた、日本の多施設ランダム化比較試験です(近畿大学ほか/NEJM 2026年8月29日オンライン版)。
| 研究の設計 | 内容 |
| 対象 | primary PCI を受ける STEMI 患者 2,216人(日本) |
| 比較 | 低用量プラスグレル単剤(アスピリンなし) 1,109人 vs DAPT(アスピリン+低用量プラスグレル) 1,107人 |
| 期間 | 12か月/PCIの前に割り付け |
| 主要評価項目 | 12か月の 死亡・脳卒中・心筋梗塞 の複合(非劣性を検証、マージン HR 1.50) |
結果を「減ったもの」と「増えたもの」に分けます:
| 単剤(アスピリンなし) | DAPT | ハザード比 |
| 死亡・脳卒中・心筋梗塞 | 11.0%(124人) | 8.5%(94人) | 1.34(95%CI 1.02〜1.75) |
| 大出血(BARC 3・5型) | 5.6%(61人) | 8.4%(92人) | 0.66(95%CI 0.47〜0.91) |
- 結論は「非劣性を示せなかった」です。信頼区間の上限 1.75 が、あらかじめ決めた許容範囲 1.50 を超えました(非劣性の P=0.40)。
- アスピリンを引いたことで、大出血は 8.4% → 5.6% に減りました。ここだけ見れば成功です。
- しかし、死亡・脳卒中・心筋梗塞は 8.5% → 11.0% に増えました。
- 件数だけを差し引くと、+2.5ポイントと−2.8ポイントで、ほぼ相殺に見えます。——でも、大出血と心筋梗塞・死亡は、同じ「1件」ではありません。何と何を交換したのか、その重さを見ないと判断できない。
- 「出血を減らすためにアスピリンを外す」流れは、慢性期では広がってきました。この試験は、発症直後の急性期、PCIの前から外すのは、少なくとも今の段階では早いと示したことになります。
- ※オープンラベル試験です。資金はボストン・サイエンティフィック ジャパン。ステント血栓症と重篤な有害事象は両群で同程度でした。
同じ号に、もう1本。「合計は同じ、中身は逆」——韓国の A-CLOSE 試験(NEJM 同日):
| 研究の設計 | 内容 |
| 対象 | 薬剤溶出性ステント留置から12か月たった、虚血リスクの高い患者 3,203人 |
| 比較 | クロピドグレル単剤 vs DAPT延長(クロピドグレル+アスピリン) |
| 24か月の結果 | 単剤 | DAPT延長 | |
| 総合(死亡・心筋梗塞・ステント血栓症・脳卒中・出血) | 5.0% | 5.1% | 非劣性を達成 |
| うち 虚血イベント | 3.7% | 1.6% | HR 2.33(95%CI 1.47〜3.69) |
| うち 出血(BARC 2・3・5型) | 1.8% | 4.1% | HR 0.43(95%CI 0.27〜0.67) |
- 合計は 5.0% と 5.1%。ほぼ同じです。だから「非劣性」という結論になります。
- ところが中身を見ると、虚血は2倍以上に増え、出血は半分以下に減っていました。——合計が同じでも、患者さんが経験することはまったく違います。
- 「非劣性」という一語だけで「アスピリンはやめていい」と読むと、この入れ替わりを見落とします。
- ※オープンラベル試験です。資金は韓国の製薬企業(Chong Kun Dang、Samjin)。
2. 70歳以上のスタチン、心血管イベントは3割減、でも「元気で長生き」は延びなかった — STAREE試験
心血管病・糖尿病・認知症のない70歳以上に、1次予防としてスタチンを「足す」べきかを調べた、プラセボ対照の二重盲検ランダム化比較試験です(オーストラリア/NEJM 2026年8月29日オンライン版)。
| 研究の設計 | 内容 |
| 対象 | 地域在住の 70歳以上 9,971人(平均 74.7歳、女性 51.9%) |
| 比較 | アトルバスタチン 40mg 4,984人 vs プラセボ 4,987人 |
| 追跡 | 中央値 5.9年 |
| 主要評価項目(2つ) | ① 心血管イベント ② 障害なき生存(死亡・認知症・持続する身体障害のいずれもない状態) |
結果:
| 評価項目 | スタチン | プラセボ | ハザード比 |
| ① 心血管イベント | 297人(1,000人年あたり 10.9) | 412人(同 15.5) | 0.70(95%CI 0.61〜0.82)= 30%減 |
| ② 死亡・認知症・持続する身体障害 | 637人(同 21.6) | 676人(同 23.0) | 0.94(95%CI 0.84〜1.05、P=0.25)= 差なし |
| 重篤な有害事象 | 2.7% | 2.7% | — |
- 心筋梗塞・脳卒中などは、はっきり減りました。単純計算で、約6年間で約43人に飲んでもらうと1件の心血管イベントを防げる計算です(8.3% → 6.0%)。
- ところが、もう一つの主要評価項目——「亡くならず、認知症にならず、身体の障害も残らずに過ごせたか」——には差が出ませんでした。
- 筋骨格系・肝胆道系・糖尿病関連の有害事象は、スタチン群で多く見られました(重篤な有害事象の全体数は同じ)。
- 足したことで得たもの(心血管イベントの減少)と、得られなかったもの(元気な年月の延長)と、払ったもの(副作用)。——この3つを並べて、患者さんと一緒に差し引きをする試験です。
- 「心筋梗塞だけは絶対に避けたい」という75歳もいれば、「毎日の薬を1つでも減らしたい」という75歳もいます。どちらも間違いではありません。
- ※糖尿病・認知症のある方、すでに心血管病のある方は対象外です。すでにスタチンを飲んでいる方が、この結果だけで自己判断で中止するのはやめてください。
- 一般の方へ:70歳を過ぎてからのコレステロールの薬は、「心筋梗塞や脳卒中を減らす効果はあるが、それで元気に過ごせる期間が延びるかは別」という結果です。気になる方は、次の受診で主治医に相談してください。
💰 金融・税制ニュース
1. 日経平均は128.17円高の65,270.95円 — ただし途中で956円下げていた
9月10日の東京市場は、終値だけ見れば小幅高です。でも一日の中身は、まったく静かではありませんでした。
| 指標 | 数値 |
| 日経平均 終値 | 65,270.95円(前日比 +128.17円、+0.20%)— 3日ぶり反発・高値引け |
| 日中安値 | 64,186.68円(前日比 一時956円安) |
| 安値から終値までの戻り | 約1,084円 |
| TOPIX | 4,054.58(+7.94) |
| 値上がり/値下がり銘柄(プライム) | 723/783 |
| 長期金利(新発10年債) | 2.900%(+0.020) |
- 朝方は売り一色。中東情勢の悪化で原油が上がり、米長期金利も上がる——「原油高と金利高」が同時に効きました。建設・機械などに売りが出て、下げ幅は一時956円に。
- 後場に流れが変わります。台湾TSMCの8月の月次売上高が好調と伝わり、値がさの半導体株に買い。アドバンテストが指数を大きく押し上げ、海外短期筋の先物買いも入って、その日の高値で引けました。
- 昨日の号で、9/9の126円安を「静かな一日」と書きました。そして9/10は、終値だけ見れば +128円。数字の上では、また静かな一日です。
- でも実際は、956円下げてから1,084円戻した日でした。——終値は、一日の「差し引き」でしかありません。
- もう一つ。日経平均は上がったのに、値下がりした銘柄のほうが多かった(723 vs 783)。少数の値がさ株が指数を持ち上げた日です。「日経平均が上がった日に、自分の持っている株は下がっていた」ということが普通に起こります。
- 朝の956円安を見て慌てて売っていたら、その日の高値で買い戻すことになっていました。——荒れた日ほど、いちばん難しいのは何もしないことです。
- ※相場は日々変動します。本レポートは今後の値動きを断定するものではありません。
2. 米PPIは前年比5.4%に加速 — 今夜のCPIの「前哨戦」、そして月曜へ
東京が閉まったあとの昨夜(日本時間 9/10 21:30)、米国の8月生産者物価指数(PPI)が発表されました。企業どうしの取引価格で、消費者物価(CPI)の先行指標として見られます。
| 米8月PPI | 結果 | 予想 | 前月 |
| 前月比 | +0.4% | +0.4% | +0.1% |
| 前年比 | +5.4% | +5.3% | 4.8% |
- 主因はエネルギー(軽油・ガソリン・航空燃料など)。中東情勢による原油高が、そのまま企業の仕入れ価格に出てきた形です。
- NYダウは316.56ドル安の52,064.10ドルで4日続落、ナスダックも4日続落。原油と米長期金利がそろって上昇しました。
- ドル円は一時154円67銭まで円安に(9/8には一時152円89銭まで円高が進んでいました)。
- 本命は今夜、日本時間 9月11日(金)21:30 の米CPIです。9/10号でお伝えしたとおり、東京市場が閉じたあとの発表なので、今日の東京の値動きにはCPIの結果は入りません。
- 受けるのは来週月曜(9/14)の東京市場です。月曜の号は「今週の見立て」として、CPIの結果と、翌週の米FOMC・日銀会合(9/17〜18)をまとめてお伝えします。
- 先週から続く構図をもう一度。日米とも「良い経済指標(強い雇用・高い物価・日本の実質賃金プラス)が、金利上昇を通じて株には逆風」になっています。ただ、実質賃金のプラスや円高は、家計には追い風です。株価と家計を、差し引きで見る必要があります。
- 金曜の夜にCPIを見て、週末じゅう不安を抱えて、月曜に慌てる——これがいちばん判断を誤るパターンです。数字は月曜の朝、落ち着いて一緒に見ましょう。
- ※見通しは各社の予想であり、実際の値動きを保証するものではありません。特定の売買を推奨するものではありません。
📌 免責事項:本Morning Briefは情報提供を目的とした要約記事であり、医学的・投資的判断を行うものではありません。引用元の一次情報を必ずご確認ください。診療判断・投資判断は各専門家にご相談のうえ、ご自身の責任で行ってください。
まず訂正から。9/10号で、インフルエンザの数字を最新ではないまま載せていました。全国は 1.11 ではなく 1.76、東京は 1.49 ではなく 2.65。しかも出典に挙げた厚労省の発表そのものに、新しい数字が載っていました。確認が甘かったです。申し訳ありません。
今日の主題は、日本の循環器の先生方がNEJMに出した試験です。心筋梗塞のカテーテル治療で、アスピリンを最初から使わないという挑戦でした。
結果は、大出血が 8.4% から 5.6% に減った。——ここまでは狙いどおりです。でも、死亡・脳卒中・心筋梗塞が 8.5% から 11.0% に増えた。
件数だけを差し引けば、+2.5 と −2.8 で、ほぼ相殺です。でも、私は患者さんに「出血は減りますが、心筋梗塞は増えます。差し引きゼロです」とは言えません。大出血と心筋梗塞は、同じ重さの「1件」ではないからです。
同じ号の韓国の試験は、もっとはっきりしていました。合計は 5.0% と 5.1%、まったく同じ。だから「非劣性」。でも中身は、虚血が2倍以上、出血が半分以下。——合計が同じでも、患者さんが経験することは逆なんです。
70歳以上へのスタチンの試験も、差し引きの話でした。心筋梗塞や脳卒中は3割減る。でも「元気で長生き」は延びない。副作用は少し増える。これをどう差し引くかは、その人が何を一番避けたいかで変わります。
相場も同じです。昨日の日経平均は、終値だけ見れば +128円。でも途中で956円下げていました。そして指数は上がったのに、値下がりした銘柄のほうが多かった。
自殺の統計も、全体では1,132人減りました。でも小・中・高生は過去最多です。合計が良くなった、という数字の中に、悪くなっているところが埋もれている。
「差し引きでプラス」と聞いたら、何と何を差し引いたのかを見る。それが、今週いちばん伝えたかったことかもしれません。
今夜は米CPIです。結果は月曜の朝、一緒に落ち着いて見ましょう。週末くらいは、数字から離れて。金曜日、今週もお疲れさまでした🩺💰
つらいときは、ひとりで抱えずに。#いのちSOS 0120-061-338(24時間)。